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2025.09.22【設計者が語る、健康な住まいの秘訣】カビを寄せ付けない家づくりと暮らし方

【設計者が語る、健康な住まいの秘訣】
カビを寄せ付けない家づくりと暮らし方





住宅に発生するカビは、多くの人にとって単なる「汚れ」や「不快な現象」に過ぎないかもしれません。
市販のカビ取り剤で一時的に除去できても、気づけばまた同じ場所に黒ずみが現れるという繰り返しに、諦めやストレスを感じていらっしゃる方も多いのではないでしょうか。


しかし、私たち設計者の目から見ると、カビは単なる清掃不足の結果ではありません。住まいの設計、構造、そして暮らし方そのものに潜む問題を示す「健康診断」の結果です。現代の住宅は、省エネルギーと快適性を追求し、高気密・高断熱化が進んでいます。これは素晴らしい進歩ですが、同時に、適切な対策がなされていないと、新たなカビのリスクを生み出す可能性を秘めています 。

本コラムでは、表面的な対処法ではなくカビの発生を物理的に、そして根本から解決するための設計者ならではの視点と対策をわかりやすく紐解いていきます。



[目次]                          
第1章 カビはなぜ発生するのか?:3つの条件と現代住宅の盲点 
カビ発生の三大条件
表面結露と壁内結露の連鎖
カビの根本原因は、施工の「隙間」に潜む

第2章 設計段階で差がつく!:カビを根本から防ぐ家づくり
パッシブデザインの活用:風と光を読み解く設計
「結露させない」構造の秘密:断熱・気密・防湿のトライアングル
調湿建材の採用

第3章 最新の技術と設備:湿度をコントロールする戦略
計画換気システム:湿度を交換する「全熱交換型」の優位性
エアコン・除湿機の賢い使い方

設計者と住まい手の「協働」が健康な家を育む

おわりに





第1章 カビはなぜ発生するのか?:3つの条件と現代住宅の盲点

カビが繁殖するためには、以下の3つの条件が揃う必要があります。
これらはカビの種類によっても多少の違いはありますが、基本的な原理は変わりません。


  カビ発生の三大条件  
湿度(60%以上): 60%を超えるとカビは活動を始め、ジメジメとした70%以上の環境では急速に繁殖が活発化します。湿度が高すぎると不快感が増すだけでなく、ダニや雑菌も繁殖しやすくなり、健康被害の原因となることもあります 。  

温度(25~30℃が最適): カビは中程度の暖かい温度を好み、特に人間が快適に感じる25~30℃の範囲は、カビの生育にとって至適温度です。  

栄養分: 埃、皮脂、ダニの死骸やフン、食べかす、石鹸カスなど、生活の中で必ず発生する有機物は、カビにとって絶好の栄養源となります。これらの汚れが溜まりやすい場所は、カビの温床になりやすい傾向があります 。  


  結露という「見えない敵」 
高気密・高断熱住宅は、外の冷気や熱が室内に入りにくいため、一年中快適な温度が保たれます。しかし、この密閉性が、調理や入浴、呼吸などで発生した水蒸気を室内に閉じ込めてしまいます 。この暖かく湿った空気が外気に冷やされた窓や壁などの冷たい表面に触れると、空気中の水蒸気が水滴に変わる「結露」が発生し、カビの繁殖に必要な水分を供給します。


  表面結露と壁内結露の連鎖  
結露には、目に見える「表面結露」と、目に見えない「壁内結露」の二種類があります。
・表面結露: 窓やサッシに発生する水滴は、目に見えるため、すぐに拭き取ることで対処できます 。しかし、放置すると窓枠やパッキン部分のカビの原因になります 。  
・壁内結露: より深刻なのは、壁の内部で起こる結露です。これは、断熱材の施工不良や、防湿層の欠損といった建物の物理的な欠陥が原因で、湿気が壁内に侵入し、そこで結露を引き起こす現象です 。  


  カビの根本原因は、施工の「隙間」に潜む  

カビは、単に換気不足や生活習慣が原因で発生するだけではありません。なぜ壁や天井の内部にカビが生えるのかという問題を掘り下げるとそこには建物の構造的な課題が見えてきます。

室内で発生した湿気は、わずかな施工の隙間から壁内に侵入します。壁内の断熱材や木材は室内よりも温度が低いため、そこで湿気が冷やされて結露が発生します 。この水分が、断熱材や木材を栄養源としてカビを繁殖させるのです。外壁に面した押入れや家具の裏側にカビが生えやすいのは、壁の温度が低いため、結露が起こりやすくなるからです。
 
これは、単なる清掃の問題ではなく、建築の構造そのものに関わる複合的な問題であり、設計者としての責任が問われる領域です。カビの発生を根本から防ぐには、居住後の対策だけでなく、設計・施工の段階からこの見えない結露リスクを排除する必要があります。




第2章 設計段階で差がつく!:カビを根本から防ぐ家づくり
カビ対策は家が建つ前から始まっています。
設計段階で適切な配慮を施すことで、カビを寄せ付けない住まいを実現することができます。



  パッシブデザインの活用:風と光を読み解く設計  
風と光はカビ対策における最も優れた、そして持続可能なツールです。
自然の力を最大限に活用することで湿度をコントロールし、カビの繁殖しにくい環境を作り出します。 

〇通風計画: 風の「入口」と「出口」を対角線上に設けることで、家全体に風が吹き抜ける「通風」を促します 。
また、暖かい空気が上昇する性質を利用し、低い位置の窓と吹き抜けや高窓を組み合わせることで、自然な空気の循環を生み出します。  
〇日照計画: 日光は建材を温めることで除湿効果をもたらし、紫外線には殺菌効果があります。隣家が近い都市部でも、高窓や天窓を
設けることで、プライバシーを守りながら光と風を効果的に取り込めます 。沖縄のような多湿地域では、伝統的な花ブロックやエキス
パンドメタルといった建材が、風を通しながら視線を遮る役割を果たしています 。  


 「結露させない」構造の秘密:断熱・気密・防湿のトライアングル  

壁内結露を防ぐには、「断熱」「気密」「防湿」の3つの要素を適切に組み合わせることが不可欠です 。 

断熱材の選定と施工: 断熱材の選定も重要です。吸湿性の低い硬質ウレタンフォームや押出法ポリスチレンフォームなどはカビのリスクが低いですが、吸湿性が高いグラスウールやセルロースファイバーを使用する場合は、確実な防湿処理が必須です 。どんなに高性能な断熱材も、隙間なく充填し、適切な防湿シートを施工しなければ意味がありません 。  





〇防湿層と通層: 理想的な壁の構造は、室内側から「防湿層(湿気を通さない)」→「断熱層」→「透湿防水層(水は通さず湿気は通す)」→「通気層(空気の通り道)」→「外壁」という多層構造です 。
これにより、万が一室内から湿気が侵入しても、壁内の通気層を通って外へ排出される安全な仕組みを構築し、内部結露を防ぎます 。 


 




  調湿建材の採用  
「呼吸する壁」として知られる調湿建材の採用も、カビ対策に有効です。

「呼吸する壁」の力: 珪藻土、漆喰、無垢材などの自然素材は、室内の湿度が高い時には湿気を吸収し乾燥している時には放出する調湿機能を
持っています。ビニールクロスに比べ初期費用はかかりますが、湿度を自然にコントロールできるため快適な住環境の実現に貢献します。無垢材は、特に湿気がこもりやすい収納スペースや床下などで効果を発揮します。  




第3章 最新の技術と設備:湿度をコントロールする戦略
現代の住宅では、機械による適切な湿度管理が欠かせません。高性能な設備を賢く選定・運用することが、快適な生活空間を維持する上で重要となります。


  計画換気システム:湿度を交換する「全熱交換型」の優位性  
高気密住宅では、シックハウス対策として24時間換気システムの導入が義務付けられています 。
カビ対策の観点からは特に換気方式の選択が重要になります。主な換気方式には、第一種換気と第三種換気があります。  

〇第一種換気(全熱交換型・顕熱交換型):
給気・排気の両方を機械で行う方式 。
このシステムには「全熱交換型」と「顕熱交換型」の2種類があり、それぞれの特性は以下の通りです 。  


全熱交換型:温度と湿度
顕熱交換型:温度のみ


適した地域

高温多湿地域・年間降水量が多い地域・寒冷地

<メリット>
・梅雨や夏の除湿効果がある
・トイレや浴室の湿気や臭気を室内に戻さない
・冬の過乾燥を和らげる
・メンテナンスが比較的容易
・省エネ性が高い
・臭いを気にせず、全館の換気計画が立てやすい

<デメリット>
・導入費用が高い

・夏の湿気がそのまま室内に入ってくる
・ダクト工事が必要で、清掃の手間がかかる
・冬は室内の湿気が排出され過乾燥になりやすい
・浴室やトイレなど湿気や臭気の強い空間には向かない

 
高温多湿な地域では、外気のジメジメとした湿気がそのまま室内に入り込むと、室内の快適性が損なわれ、カビのリスクが高まります。
そのため、温度だけでなく湿度も交換する「全熱交換型」の換気システムが、カビ対策として非常に有効です。  


  エアコン・除湿機の賢い使い方  
機械設備を適切に運用することも、カビ対策の重要な柱となります。

〇冷房とドライ機能の使い分け: 湿度を下げることに特化した「ドライ機能」は、温度を下げる冷房よりも湿気が問題となる場合に効果的です。
内部クリーン機能の活用: エアコン内部は結露しやすく、カビの温床になりがちです 。使用後は内部クリーン機能や送風運転を活用して、
内部を乾燥させることがカビの発生を抑制する上で重要です。  
〇除湿機の活用: 押入れ、クローゼット、地下室など、空気が停滞し湿度が高くなりやすい場所では、除湿機を集中的に使うことでカビの発生を未然に防げます。  


  専門家による防カビ技術  
既にカビが発生してしまった場合や、新築時に将来のリスクを低減したい場合は、専門技術も有効な選択肢となります。防カビコーティングを建材に施すことで、カビの繁殖を長期的に抑制する技術があります 。また、特殊な溶剤やミストを用いた「MIST工法®」のような専門サービスは、カビを根本から除去し、再発を防ぐ効果が期待できます。
どんなに優れた設計の家でも、住まい方次第でカビは発生します。日々の暮らしの中で、空気の流れを意識する
ことが大切です。

・家具の配置: 家具を壁にぴったりつけず、数センチ隙間を空けるだけで、空気の停滞を防ぎ、結露やカビのリスクを軽減できます 。  
・水回りの徹底換気: 入浴後や調理後など、湿気が多く発生するタイミングでは、窓を開けたり換気扇を長時間回したりして、湿気を排出しましょう 。 
・清掃: カビの栄養源となる埃や汚れをこまめに除去することが、最も基本的で効果的な対策です 。特に、水回りや家具の裏、収納スペースは重点的に掃除を行いましょう 。  



設計者と住まい手の「協働」が健康な家を育む
カビは、設計上の問題だけでなく、住まい手の使い方にも左右されます。設計者が高性能で結露しにくい家を建てたとしても、室内干しや換気不足、不適切な家具配置といった住まい手の行動が、新たな湿度源や空気の停滞を生み、カビの条件を整えてしまう可能性があります。  最高のカビ対策とは、設計者が住まいの性能を最大限に高め、その上で住まい手がその特性を理解し、適切に暮らすことです。設計と暮らしは切り離せない「協働」の関係であり、この両輪が揃って初めて、カビのない、本当に健康な住環境が実現するのです。  





おわりに
カビは、建物の構造、使用する建材、設備の性能、そして日々の暮らし方まで住まいに関わるあらゆる要素が複雑に絡み合って
発生する問題です。
設計者としてできることは、結露を寄せ付けない構造を設計し、高性能な換気システムや調湿建材といった
適切な「道具」を提供することです 。

しかし、その家が本当に健康でいられるかどうかは住まい手がその家の特性を理解し、日々その「道具」を賢く使いこなす努力に
かかっています。  
もしカビに悩まされているなら、それは「住まいがあなたに何かを伝えようとしている」サインかもしれません。


設計者と住まい手、それぞれの視点と役割を理解し、カビのない、本当に健康的で快適な暮らしを一緒に築いていきましょう。




カビにまつわる悩みにもお答えいたします。
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